結論から書きます。この証拠の範囲では、ほとんど機能していません。そして18形状のうち2つは、そもそも証拠が1件も存在しません。
主要暗号資産10ペアの9年分に対して、意図的に厳しい検出器を再生した結果、完成形状は661件でした。エンジンが認識する18形状のうち、9つは使えるサンプル数に到達せず、そのうち2つは一度も出現していません。到達した9つのうち、すべての計測地点でコイン投げを上回り続けたのは2つだけです。
答えとしてはこれで全部です。以下はその内訳を形状ごとに並べたもので、どの主張にもサンプル数を併記してあります。どの行が証拠で、どの行が単なる算術なのかが見分けられるようにするためです。
何を計測したか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データ源 | Binance の公開ローソク足データ |
| 銘柄 | BTC・ETH・SOL・XRP・BNB・ADA・DOGE・AVAX・LINK・TON(USDT建て) |
| 時間足 | 日足および4時間足 |
| 対象期間 | 2017年8月17日 〜 2026年7月25日 |
| 検査したローソク足 | 182,341本 |
| 完成形状 | 661件 |
| 計測地点 | 完成から5・10・20・60本後 |
| 検出器の最小信頼度 | 0.72(ライブラリ既定値、変更なし) |
| 検出器の最小高さ | ATRの2.5倍 |
| 割合を公表するサンプル下限 | 30件 |
ここでいうヒット率は、完成した形状のうち、古典的テクニカル分析がその形に結び付けている方向へ動いた割合です。どれだけ動いたかについては何も言っていないため中央値の変化率を併記し、単独では信頼度を意味しないためサンプル数も併記しています。
日本語で調べると出てくる数字は、暗号資産の数字ではない
これは日本語で情報を探している人ほど踏みやすい落とし穴なので、先に書いておきます。
日本語のチャートパターン解説で見かける「ダブルトップの成功率は約73%」「ヘッドアンドショルダーズは80%超」といった数値は、そのほとんどが Thomas Bulkowski が米国の株式市場を対象に行った研究(thepatternsite.com、最終更新2020年)に由来します。孫引きの過程で出典が落ち、あたかも一般的な事実のように流通しています。
英語圏でも事情は同じで、暗号資産のパターンスキャナーとして知られるサービスが、自社の統計ページに**「掲載している統計はすべて株式市場のデータに由来する。暗号資産全体を対象とした同等の統計研究は存在しない」**と明記しています。別の大手は80%台の成功率を掲げていますが、サンプル数・対象期間・銘柄数・検出しきい値のいずれも書いていません。
つまり、日本語で「チャートパターン 勝率」を調べて出てくる数値は、暗号資産を計測したものではない可能性が高い、ということです。株式と暗号資産ではボラティリティも取引時間も違います。このページの数値が既存の解説と大きく食い違うのは、対象が違うからです。
形状ごとの答え
各行は合算の記録です。4地点すべての表・時間足別の内訳・検出方法は、リンク先の各ページにあります。
持ちこたえた2つ
- ダブルボトム — 50件。10本後63.3%、60本後でも57.5%、そして中央値の変化率が地点が進むほど上がります(20本後 +8.19%、60本後 +19.47%)。方向と値幅がすべての地点で一致している唯一の形状です。
- 上昇ウェッジ — 34件。5本後61.8%、10本後64.7%、20本後61.8%で、中央値の変化率は一貫して負です。サンプルは小さいものの、内部で整合しています。
偶然と変わらない水準で決着したもの
- ダブルトップ — 55件で、10本後29.1%。10本後に価格が上にあった事例がおよそ10件中7件で、古典的な読み方と逆です。
- 下降ウェッジ — 66件。時間とともに減衰します。5本後57.6%、10本後53.0%、20本後47.0%、60本後45.5%。捉えている何かは短命に見えます。
- 上昇三角形 — 43件。5本後44.2%、60本後48.8%で、20本後の中央値は +0.35% です。
数字の上では偶然を上回るが、実務的には空っぽなもの
- 下降三角形 — 74件で、検出数は2番目に多い形状。60本後57.5%ですが、中央値の変化率は −0.28% です。半分以上が「正しい」方向へ動き、その典型的な値幅が1%の4分の1でした。
- ブルペナント — 42件。ただし割合が10本後40.5%から60本後66.7%まで振れます。この規模のサンプルはまさにこう振れます。
- ベアペナント — 32件。4地点すべてで51.6%〜56.3%に収まり、コイン投げとの差は意味を持ちません。
方向についての主張を持たないもの
- 対称三角形 — 211件で、データセット中で圧倒的に最多。見つかったもの全体のおよそ3分の1を占めます。動きが来ることを示しますが方向は示さないため、ヒット率は公表していません。結果の散らばりで判断してください。
- レクタングル — 同じ理由で、検出は2件でした。
何も言えない9つ
| 形状 | 9年間の検出件数 |
|---|---|
| ヘッドアンドショルダーズ | 15 |
| 逆ヘッドアンドショルダーズ | 15 |
| ブルフラッグ | 8 |
| ベアフラッグ | 6 |
| カップウィズハンドル | 5 |
| ラウンディングボトム | 3 |
| トリプルトップ | 0 |
| トリプルボトム | 0 |
ヘッドアンドショルダーズには1行を割く価値があります。テクニカル分析で最も認知度が高く、80%台の成功率とともに引用されることが最も多い形状だからです。9年間で15件では、信頼できる形状とコイン投げを区別できません。そこから割合を作り出す誠実な手続きは存在しません。
トリプルトップとトリプルボトムは検出件数ゼロでした。これは検出器についての事実であり、その形状が存在しないという主張ではありません。トリプルトップは1つの構造の中で信頼度と高さの条件を3回満たす必要があり、182,341本の中に該当する候補がありませんでした。そして、これは製品紹介ページが自発的に見せる動機を持たない類の行でもあります。
最も多く見つかる形状が、方向を何も言わないという事実
見落とされやすい数字があります。661件のうち211件、およそ3分の1が対称三角形です。2番目に多い下降三角形の74件を大きく引き離しています。
そして対称三角形は、方向についての主張を持ちません。上下どちらの辺も傾いており、教科書的にも「どちらかへ抜ける」としか言いません。ヒット率を公表していないのはそのためです。「そもそも動いたか」で採点すれば100%近い数値が出てしまい、流し読みする人には「常に当たるパターン」に見えてしまいます。
つまり、検出器が最も頻繁に見つける形状は、方向について何も教えてくれない形状だということです。これは検出器の欠陥ではなく、収束していく値動きが暗号資産のチャートで最も頻出する構造だという観察です。
ここから2つのことが言えます。1つは、「パターンが見つかった」という事実そのものには情報がほとんど無いこと。3分の1の確率で、それは方向を言わない形状です。もう1つは、方向を持つ形状に限れば、実際の観測数は661件よりさらに少ないということです。対称三角形とレクタングルを除くと450件ほどで、それを16形状で分け合っています。1形状あたりの平均は30件を割り込みます。
サンプル下限の30件に到達する形状が9つしかないのは、この配分の結果です。件数が偏っているのであって、まんべんなく足りていないわけではありません。
他所の「機能する」という答えと、なぜこれほど違うのか
同じ問いに対する2つの計測の間では、次の4点が変わります。そしてそのどれも、通常は明記されていません。
- 検出器の厳しさ。寛容な検出器は境界的な形状を大量に見つけ、厳しい検出器はきれいなものを少しだけ見つけます。母集団が比較可能ではありません。
- 「成功」の定義。「投影した水準に到達した」は一瞬の突発で満たされますが、「N本後に上か下か」は満たされません。前者のほうがはるかに見栄えのする数値が出ます。
- 対象期間と市場。暗号資産主要銘柄の9年間は、株式の30年間ではなく、傾きも同じではありません。
- サンプル不足の形状を報告しているかどうか。30件未満を黙って落とした表は、それらを見せる表よりも劇的に一貫して見えます。
最後の1点が、この表が他社サイトの表より悪く見える最大の理由です。ここでは行の半分が「件数不足」と言っています。それらの行は他社のデータから消えたのではなく、最初から印字されていないだけです。
方向が当たることと、利益が残ることは別
教科書的な方向へ決着する割合が半分を超えている形状でも、コストを引くと何も残らないことがあります。
| 形状 | 60本後のヒット率 | 60本後の中央値変化率 |
|---|---|---|
| 下降三角形 | 57.5% | −0.28% |
| 上昇三角形 | 48.8% | −0.52% |
| ベアペナント | 51.6% | +7.80% |
| ダブルボトム | 57.5% | +19.47% |
ここでの変化率はすべて終値ベースで、手数料・資金調達コスト・スリッページを含みません。レバレッジをかけた暗号資産のポジションの往復コストは日常的に0.25%を超えるため、1事象あたり1%を下回る効果は実執行では消えていると考えるのが妥当です。
誰も触れない「時間足」の問題
上の合算表は日足と4時間足を合わせたものです。分けると、居心地の悪い事実が出てきます。日足で30件に到達する形状は1つだけ — 対称三角形のちょうど30件です。下降ウェッジは16件、ダブルボトム15件、ダブルトップ6件、ヘッドアンドショルダーズにいたっては9年間で1件です。
4時間足では8形状が下限を超えます。したがって、このページのすべての割合は事実上4時間足の統計です。ダブルトップの10本後を4時間足だけで見ると49件中28.6%で、合算値29.1%とほとんど変わりません。日足のサンプルが薄すぎて合算値を動かせないのです。
実務上の含意は、一般的な信念と逆になります。長い時間足のほうが信頼できるとよく言われ、雑音が少ないのは確かかもしれませんが、証拠の量ははるかに少なくなります。9年間は日足では2,900本程度にしかならず、厳しい検出器を通せば十数件しか残りません。
日本語圏の規制と、このページで書けないこと
日本語でこの種の情報を読むときに知っておく価値がある前提があります。2026年7月15日に成立した法改正で、暗号資産が金融商品取引法の枠組みに入りました。個別の売買判断を助言として提供する行為には登録が要求されます。
このサイトはその登録を受けていないため、方向の断定・参入や退出の水準・個別化された数量を、設計としてすべてのロケールで出力しません。日本語ロケールではさらに、測定による到達水準も出力しません(英語ロケールでは出力します)。同じエンジン、同じチャート、違う出力です。
これは機能の出し惜しみではなく、ロケールごとに適用される規制が違うことの反映です。そして、このページの内容にも影響しています。ここで書けるのは「過去にこうだった」という記録であり、「だからこうなる」ではありません。逆に言えば、記録だけを提示するという制約が、この数値を検証可能な形に保っているとも言えます。
18形状を3つに分けて読む
形状ごとの数字を全部覚える必要はありません。実務的には、次の3群に分けて頭に入れておけば足ります。
第1群: サンプルがあり、方向と値幅が一致しているもの(2つ) ダブルボトムと上昇ウェッジ。ここだけが「過去の記録として何か言える」群です。ただし50件と34件で、多いとは言えません。
第2群: サンプルはあるが、方向か値幅のどちらかが崩れているもの(7つ) ダブルトップ、下降ウェッジ、上昇三角形、下降三角形、ブルペナント、ベアペナント、そして対称三角形。方向が偶然と変わらないか、方向は当たっても値幅がコストに埋もれるか、そもそも方向を主張しないか、のいずれかです。
第3群: 何も言えないもの(9つ) ヘッドアンドショルダーズ以下。件数不足が7つ、出現ゼロが2つ。
この配分自体が答えになっています。18形状のうち、記録として何か言えるのは2つ。残る16は「言えない」か「言えても実務的な差がない」かのどちらかです。「チャートパターンは機能するのか」に一言で答えるなら、この2対16という比率が答えです。
この数値を自分で確かめる方法
このページのすべての数値は再現可能です。しきい値を結果と一緒に公開しているのは、そのためです。
エンジンは決定論的です。同じローソク足からは、どのマシンでも毎回同じ出力が得られ、水準・スイング・形状を計算する経路のどこにもモデル呼び出しはありません。言語モデルが使われるのは、算出済みの読み取り結果を文章にする段階だけで、数値を変えることはできません。
したがって「ダブルトップは10本後に29.1%の割合で教科書的な方向へ決着した、n=55、しきい値は信頼度0.72とATR2.5倍、対象は10のUSDT建て主要銘柄、期間は2017年8月17日から2026年7月25日」という主張は、検証可能な言明です。同じ公開ローソク足データと同じしきい値を持つ人なら、同じ数値に到達するか、我々が到達していないことを示せます。
この性質は同時に、ある種類のツールがこの手の主張を行うことを構造的に不可能にします。チャートを言語モデルに渡して答えさせる仕組みは、同じチャートに対して日によって違う読みを返します。計測対象となる安定した検出の母集団が存在せず、それについてのどんな割合も再現できません。モデルの能力への批判ではなく、何が測定可能かという構造上の事実です。
よくある誤読
この表を読むときに起きやすい誤りを3つ挙げておきます。
誤読1: 「ダブルトップが29.1%なら、逆に読めば70%当たる」 そうはなりません。55件という小さく偏ったサンプルで、しかも10本後29.1%・20本後40.0%と地点によって振れています。この並びは雑音と整合的です。擁護できる結論は「下がりやすいことを立証しない」までであって、「上がりやすい」ではありません。
誤読2: 「ヒット率が高い形状を選べばよい」 下降三角形は60本後57.5%ですが、中央値の変化率は −0.28% です。方向だけを見れば優秀に見え、値幅を見ると何も残りません。2つの列は、常にセットで読む必要があります。
誤読3: 「日足のほうが信頼できるから、日足の形状を見ればよい」 日足で30件に到達する形状は1つだけです。信頼できると感じることと、証拠が存在することは別です。長い時間足についての主張ほど、それを支える件数は少なくなります。
なぜ9年で661件しか見つからないのか
「9年・10銘柄・18万本で661件」は、直感的には少なく感じるはずです。チャートを眺めていれば、ダブルトップらしき形はもっと頻繁に目に入ります。この差は検出器の作り方から来ています。
第一に、形状は生のローソク足ではなくスイングの転換点に対して照合されます。 転換点が確定するのは、価格がそこから ATR(14) の2.5倍(下限は価格の0.8%)を超えて反転した後だけです。ヒゲの長い1本の足では転換点が作れず、したがって形状も作れません。目視では「山が2つある」と見える箇所の多くが、この段階で候補にすらなりません。
第二に、最新の転換点には「仮」の印が付きます。 価格がまだ、それを証明するだけ戻っていないためです。仮の転換点は形状の最後の位置にだけ入ることができ、中間には入れません。まだ起きていない転換点の上に形を組み立てて、次の足で消える、という事態を防ぐためです。チャートの右端で「今まさに形成中に見える形」の多くは、ここで除外されます。
第三に、報告されるのは信頼度0.72以上の検出だけです。 この数値は好みではなく計測で決めています。10個の教科書的な検証用データと40本の独立したランダムウォークを通したところ、教科書データの信頼度中央値は約0.88、雑音は約0.74でした。0.72はこの信号の下限より下に置かれており、不完全な現実の形状は浮上しつつ、雑音の大半は落ちます。
第四に、反転型は「極値の位置で何かを反転している」ことを要求されます。 レンジの真ん中にある「ダブルトップ」は、単に転換点が3つ並んでいるだけです。この条件がないと、横ばい相場が反転パターンを延々と生成し続けます。
この4つを重ねた結果が、1,000本あたり約3.6件という密度です。同じ期間から数千件の形状を報告するツールがあれば、それは違う相場を見ているのではなく、違うしきい値を使っています。 どちらが正しいという話ではありませんが、報告件数としきい値を公表していないツールについては、その厳しさを利用者が知る手段がありません。
そして、この厳しさこそが661件という薄さの原因でもあります。緩めれば件数は増え、サンプル下限に届く形状も増えますが、増えた分の大半は境界的な形状で、統計としては雑音を足すことになります。件数の少なさと、1件あたりの確からしさは、同じつまみの両端です。
この記録の使い道
以上を踏まえると、この表の実務的な使い道はかなり限定されます。しかし、ゼロではありません。
基準率として使う。 「この形状は過去に55回出現し、そのうち29.1%がこう決着した」という形で、期待値の目安を持つ。予測ではなく、記録として扱います。
否定情報として使う。 その形状が9年間で15件しかない、あるいは一度も出ていない、という情報は、行動を促さないぶん供給されにくく、意思決定においては肯定情報と同じだけの価値を持ちます。ヘッドアンドショルダーズについて自信のある説明を読んだとき、「暗号資産では15件しか観測されていない」を知っているかどうかで、その説明の受け取り方は変わります。
他の主張を測る物差しとして使う。 どこかで「このパターンの成功率は82%」という数字を見たとき、サンプル数・対象期間・銘柄・検出しきい値・成功の定義を尋ねる。この5つに答えられない数値は、誤りだとは限りませんが、確かめようがありません。
この結果が証明していないこと
- 661件は小さいサンプルであり、しかも半分の形状は使える件数に到達していません。
- 10銘柄は相関しています。一緒に上下するため、実効サンプルは件数が示唆するより小さく、661回の独立試行というより、いくつかの独立した相場局面に近いものです。
- 対象は1.5サイクル程度で、すべて2017年以降の暗号資産です。ダブルトップの結果は、大半が上昇していたサンプルの傾きで説明するのが最も妥当で、傾きが説明するのなら、傾きの異なる期間には持ち越されません。
- 検出器は雑音の中にパターンを見つけます。400本の独立したランダムウォーク40本を同じ検出器に通したところ、14本から名前の付く形状が出ました。
- 将来についての記述ではなく、投資助言でもありません。
では、チャートの形状を見る意味はあるのか
擁護できる答えは、「パターンは機能する」派と「パターンは無意味」派のどちらが望むものより狭くなります。
記録が支持すること: 形状は、チャートが何をしたのかを固定された基準で記述する方法です。同じチャートを見た2人が、そこに何があるかについて合意できる。これには価値がありますし、第三者が検証できます。
記録が支持しないこと: 名前の付いた形状を、特定の結果を期待する理由として扱うこと。これらの銘柄・この期間においては、大半の形状が持つ方向の情報は、それが計測された市場の傾きと区別がつかない程度に小さいものでした。
誠実な使い方は、サンプル数を伴った基準率として扱うことです。「この形状は55回出現し、そのうち29.1%がこう決着した」という形であって、シグナルとしてではありません。ここでの数値がその形で公表されているのはそのためであり、何も言えない行がページに残っているのもそのためです。